リサイタル@天空劇場 ~プログラムについて考える


今年もやるべきことを終えた、という充足感と虚脱感。大きな本番が終わるとしばらく呆けてしまいます。

 

先日、東京芸術センターでのリサイタルを終えました。

 

開催が決まったのは去年11月のリサイタルを終えた数週間後。プログラムは悩みに悩み、春頃に決定しました。今回演奏した5作品のうち4作品は、今年に入って新しく取り組み始めたものでした。

 

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《プログラム》

グリンカ=バラキレフ/ひばり

R.シューマン/森の情景 Op.82

F.ショパン/バラード第4番 Op.52

 

向井航/《一粒の麦が、もし地に落ちて…》

J.ブラームス/ピアノソナタ第3番 ヘ短調 Op.5

 

アンコールには、シューマンのトロイメライを選びました。

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ある程度長さのあるプログラムを組む時、軸となる音やテーマを決め、そこからイメージを膨らませて作品を選んでいくやり方が、今のところ私にとっては気持ちが入りやすく、集中できます。

 

今回はF(ファ)の音を巡るプログラム構成……そして生と死、命のツィクルス、を裏のテーマとして自分に課して取り組んでみました。

 

ヘ短調という調性は、古くから死、葬列を象徴する調性。

冒頭《ひばり》では第1音目がF音(ファ)。今回のテーマとなる音からひばりが羽ばたくように始まります。

続く《森の情景》では、ただいきいきと楽しげな森の様子だけでなく、おぞましく身が凍るような不吉さが常に表裏一体となっている印象を持つ作品。終曲の最後は、この作品の全体的な調性である変ロ長調の主音B音(♭シ)で締めくくられています。

《バラード第4番》では哲学的な問いを繰り返し、祈りのコラールを経て一気に大波に飲み込まれていきます。

 

後半《一粒の麦が、もし地に落ちて…》は、ヨハネ福音書の”一粒の麦が、もし地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる”という一節からインスピレーションを得ている作品。作曲者の向井さんからも「命の輪廻」について言及され、私自身その意味を咀嚼するのに様々なことを考えました。

ブラームスの《ピアノソナタ第3番》は第1楽章から第5楽章まである壮大な作品。ヘ短調からヘ長調へ、運命との闘い、そして勝利へ、というイメージでプログラムに入れました。

 

今回のプログラムは、10年後に改めて弾き直すとおもしろいかも、と思っています。

 

 

なんだかまとまりのない文章になってしまいました。

 

緊急事態宣言明けから間もない時期で、観客数も40%に縮小しての開催となりましたが、多くの方からご感想や励ましのお言葉をいただけて大変嬉しかったです。

最後になりましたが、関係者の皆様、ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。

次のステージに向かって、またゼロから精進していきたいと思います。

ベヒシュタインのピアノ。鍵盤と音色が直結しているような、素直で温もりのある響きが気に入りました。